ナビオ ― 街に難破する船 ―

ちょっと悲しかったことは いっしょに誓いあう人がいないことだ。 <カンケイナイ>と言い切れて それで立ち去ってしまえる時期ってのは ほんのすこしかなくて ナビオ 街に難破する船にうずくまる僕は ちょっとばかり 年をとりすぎていた。 ひからびた舗道をヤカマシイ政治屋たちが行進する 大音響のしっぽをふり上げて カシマシイ党派が行く。 誰も そう 誰も彼もだ 僕をあきらめてくれやしない。 たとえ<カンケイナイ>と言い切ったところで ゆううつは風のように運び込まれて ああ、それそれって言いながら、僕を追いたてる それがすべてあなたのためなのだと オセッカイな党派連中はおっしゃる。 政治は脱ぎ捨てられない汚れた下着だ 恥ずかしいから 拡声する 公約する 宣誓する 告示する。 誰も そう 誰も彼も 僕をあきらめてくれやしないんだ たとえば身を粉にする毎日の労働や 結婚して築く家庭 オヤジとしてのつとめ たつきのためにあきらめ 国のために身銭を切り 自治体のために投票する ある場合には 銃を取り 殺し 犯し 焼きつくし つくしきったあとで ウロウロと言い訳を捜しまわること 人生にはなんて なんてたくさんのノルマが待ちかまえていて それが僕らをしめあげようとすることだろう。 しかし いつか苦しみにも慣れてしまう きのうの感激がきょうはあきらめに変わる 大人たちが僕に教え込んだことだ すべてはあきらめきれるってこと だが今 僕が目撃している事態は あきらめがごうまんに変わる巨大な転換だ。 ナビオ 街に難破する船に乗りあわせて 僕の失敗はただひとつ あまりにイソガシかったということだ 民主主義にイソガシかった 買い逃しはしないかと 自由の売出し広告に目がくぎ付けられて 裏番組録画ぐらいヤブニラミをしても それでもイソガシくて いつも<まあいいや>と ものごとを先送りにした。 僕の失敗はただひとつ 先送りにしたものごとを奪い取られたことだ 本当だ いちども全面的に賛成したことなんかなかった ただのいちどもだ もちろん全面的に反対したこともないが 問題は意志を問われたことなんかなかったということだ 判断はいつも奪い取られていた あらゆることが決められたあとだったし いつのまにか賛成したことになってしまっていたので いつも朝の喫茶店で<まあいいや>と呟いた。 僕の失敗はただひとつ <まあいいや>と呟くことが自由のあかしであると思い込んだこと。 ナビオ 街に難破する船に <まあいいや>の自衛隊がひしめいている 一億の<まあいいや>が やがてひとつの号令に転換する ひとつの核弾頭に ひとつの強行採決された徴兵令に ひとつのアル中狩りに ひとつの公認された武装に ひとつの絞首刑に。 ナビオ 街に難破する船の高いところで 髪の毛ふりみだして絶叫するじいさんたちよ なめらかな手すりに乗りだして 下界を見おろすコンペイトウ いやみったらしい利益誘導の臭い あぶらぎった公約 高いところでおじぎをし 品を作って連呼する 三文芝居の道化役者よ 最後の最後のお願いの向こう側に うっとりと、あなたが夢見る 利権を欲しいままにする権力 でっぷりと下腹のたれ下がったセンセエたちよ こそくな政治屋たちよ あなたに同意したことなんか ない! ナビオ 街に難破する船の船室で いつもなにかしら淋しかったような いつもなにかしら悲しかったような いつもなにかしら苦しかったような気がする わたしたちの船 平和と民主主義と生活向上の 使い古された選挙スローガンの船よ オカタイ政治屋たちよ ケッペキな白い手袋ほどに 党派よ わたしたちを代弁したくてしようのない オセッカイな党派よ さよーならだ 生きのびた戦犯たちのゆうれい船 金権、利権の黄金船 にっぽんの船よ 南の国々へのいかがわしい貿易船 果てしない断崖に激突する浮沈空母 ナビオ 街に難破する船 本当はあなたを愛していた 嘘なんかじゃない しかし 愛は押印された文書や署名用紙ではない もちろんうしろめたいビニール本のなかにあるものではない それは確かだ だが権力をたてにして取り締まるあなたに 祖国への愛を語る資格があるか? さよーならだ ナビオ 街に難破する船 だいじょうぶだ 助けあえば 海を渡ることはたやすいことだ それに困難のなかでこそ いっしょに誓いあう人を見つけることもできるだろう。 

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