おとぎ創詩「はなさか」   詩 永井ますみ               (絵 玉井 詞)

うばすて

ここらあたりはどうかしらね 風がわたると 銀色にうなずく いちめんのすすき野 猫の腹のようにつややかで 異界を見るよう 雲の切れ間からひかりが射し込んで ひときわ明るいスポットをつくる その稜線のひだまりに うすい敷物をしいて すでにゼンマイの切れた 手も脚も動かなくなった私を 置いていって ひととき谷間の紅葉を眼の奥に染めてから 吹きあげる北風と すすきの穂の乱舞のなかで 肉体から脱出する方法を考える 春になれば 枯れ折れたすすきは一昼夜の業火にもまれ 黒い焼け跡に ぬけがらになった私が横たわっている

兄たち

悪い魔法使いに化身させられた 十一羽の白鳥 十一個の分身 十一の記憶 いらくさに指を刺されながら編んでいる 記憶の形の自在のベスト すっかり甦るまで沈黙するのです やさしく尋ねられても きびしく問いただされても 目は空洞のように自身を見据えて 時間を下さい 私の指の血のにじんだベストの一枚一枚が さびついた記憶を 空にカラカラと解き放つ ついにその時を持つ為に 鮮やかに甦る十一の記憶 十一個の分身 十一人の力強い兄たち 私の味方

1997年2月号より
*竹林館刊  540大阪市中央区粉川町2−7−301 定価1500円
子供の頃に聞いた夢のようなおとぎ話の、その後日談的な展開で、ひとつの世界を作った、という詩画集です。

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