葱とカサブランカ
たなかよしゆき
新しい家には土がない
土のない暮らしなんて
栓のないぬけたビールよりもっとまずい
そこで
畑の葱とカサブランカを家に持って帰ることにした
プランターに移植したら
あなたの淋しい空虚なくらしにも
大輪の白い花が咲くかも知れない
葱はすがすがしい香りで食卓をにぎわしてくれるだろう
カサブランカは根元から掘り起こし片手にもつ
ずしりと重い
その重さに耐えながら
四駅向こうの新しい家まで運ぶ
重いやろ
しんどいやろ
ごめんなあ
とあなたは葱を抱えながら
何度も声をかけてくれるが
あなたの淋しい空虚なくらしを
豊にしてくれるのであってみれば
こんな重さくらい大したことはない
ささやかな
生きるための努力
その苦痛に耐えてこそ
大きな白い大輪の花も咲くというものだ
*「サクラしんぶん」8号より 寝屋川市梅が丘1-11-7-102
たなかさんから送っていただいたミニコミ新聞です。ミニコミですが、内容は充実しています。例えば、編集人・
山田克也さんの「慌記」には下のような言葉がありました。
▼ここでは、すべてのコトバが生きてきます。そういうところでありたいというのが、唯一、編集人のねがいです。
上手いとか下手とかいうのではなくて、いい文章というのはその人らしさが現れているものをいうのではないでしょうか。
プロではなくズブシロの場合ですが。
▼自分を表現して相手に伝えたいという気持ち…その芽立ちの場、自然農の畑みたいなところ。生きものは心身を傷めると出生地に
もどって出直しをします。
▼コトバもまたその芽立ちの場に立ちかえって、母胎(コトバのマグマ)から直に充電することが必要です。分別を本性とするコトバは、
もともと世界が一体のものであった、ということをよく知っています。