祖父母の家―その土地その花々    愛媛県越智郡富田村拝志(現在今治市)                 羽生槙子

             

 鶏 1

とり小屋の奥のすみに 卵を生む場所が作ってある 卵を生みたくなった鶏は そこへ入ってすわりこむ ポロンと卵を生んで ココッと声を上げて すまして出てくる

 鶏 2

なんだかポヨポヨの殻の卵を生むので おとなは かきの殻を砕いて 粉にして 餌にまぜなくては と言う かきの殻は裏庭に転がっている

 鶏 3

裏の畑で卵を生んで それがくせになった鶏がいて 卵はおとなに見つかって どうも卵が少ないと思ったら しょうがない とおとなは言うのだけれど 裏の畑の気持ちの良さ お日さま さんさん 茂みにふかふかの場所 鶏は思わずそこで卵を生んで 次の日もそうしたくて 気持ちのいいお天気の日は続いただろう

 鶏 4

鶏のそばで 鶏と同じ目の高さにしゃがんで 鶏を抱こうとする たいていは逃げられるけれど 時々おとなしく抱きすくめられる鶏のあたたかいこと きつく抱きしめないで ふかふかに抱こうとすると 腕の中に 力強い濃密な実質

 鶏 5

卵を生む場所にすわりこんで どうでも動かなくなった鶏がいると 鶏がすねた とおとなは喜んで 物置に 一羽がすわりこめる箱にわらを敷いて 鶏を入れて卵を抱かせて 暗くする すねると言っても 気げんが悪いんだか幸せなんだか 鶏は目をぱちくりぱちくりさせて 暗い所でひとりの世界にいる

 鶏 6

卵を抱いた鶏は 祖母の世話を受けて餌を食べる 時々 箱を出て歩き 物置の戸をあけた所から外へ出たりして (人で言えば背のびをしたんだろう) また卵を抱く箱へ戻ってすわりこむ 卵がはみ出てないか気をつけて羽の下へかかえこむ 物置のすみにはこんこ(たくあん)の樽が並んでいる

 鶏 7

せっかく卵を抱かせたのに 途中でいやになって 卵を抱くのをやめる鶏がいる 抱いていた卵はだめになる おとなはがっかりするけれど こればっかりは鶏の気もち次第

 鶏 8

ひよこが生まれると 祖母は さあ ひよこぐさ(はこべ)をとっておいで と言う わたしは野にかけ出す      

*「想像」79号より  横浜市港北区下田町6-14-33 羽生方
  ごく子供の頃、鶏やひよこと一緒に育ったので、おもしろく読ませていただきました。

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