おんな達          村上悦代

              * ここに解体した人間が立つ 駅前の切符売り場の横に 朝も昼も夜も 上唇を下唇の中に 埋めた言葉を持たない老婆が 立つことを日課にして人生を終わろうとしている  あのときじかんがとまって かなしみといかりがいちどにあたまのなかでばくはつした   ききたくないおもいがつのり なくしたことをわすれたくてここへきた あれからど のくらいのつきひがすぎたかわからない かえらぬひとをまつからだだけがわたくしをこ こへはこぶ あのひとのかおはわすれたこえもわすれた だからだれともくちをきかない だれもみない ここにこうしてたっているあいだは私はいかされてある ひとがかなしみ やよごれをさけてとおるように私をさけてとおってくれる このえきまえがなくなること はかんがえない すべてが私のなかにあるのだから かいすうけんをかってこうないには いることと でんしゃをながめること でんしゃにのってここにかえってくることは あ のひとが私とともにいることだ おかねがなくなるとだれかがぽけっとにこぜにをいれて くれる ひとびとによっていかされてある私 なんせいきもまえからくりかえされるひげ き あいするひとをなくすということ そのじじつをわすれていきるひとと みずからを やんでいのちをおとすひと 私はかなしみのうつわとなっていきることをえらんだ ひと びととのかかわりでつづくじんせいからはみだすことをのぞんだ ときどき私をどうけし あつかいして またえきにいくのいったのあきらめなさいよとこえをかける そのだれか のこえがすどおりすることにもなれた こたえをまっているひとはだれもいない せいよ くのはけぐちとして私をつかまえるひともいる おわったあとぜんごのくべつもつかない ほどにあかにまみれたひとがごむのにんぎょうをだくほうがましだとつばをはきすてる  こぜにをかすめとるひともいる かんじょうがわかないものだからなにをされてもこたえ ようがない いたみはあるがこえはださない あのひとがことばもこえももっていってし まったのだから おどろきうずくまりひとといたみがさるのをまつ だがあのひとはさら ないかなしみもさらない みるな!といった みた なにもなかった あのひとの血の手形だけがでんしゃのまえに はりついてあった あれはまぼろし ここにこうしてたっているのも まぼろし あのひとはわたくしがむすめのころからああしてたっているのよ ひとにめいわくをかけ ないからほおっておかれるのだけれど こくなはなしよねと ちゅうねんじょせいがちぢ んにささやいているけれど 私がえらんだことだと だれにもいわさない

*村上悦代さんの個人誌より
 職場ではリストラの嵐で、自身も移動させられたということですが、焦らずに発行を続けていく、ということです。
 一人芝居のモノローグを見ているような味わいのある詩です。

戻る

ホームページ