折りたたまれたもの          谷内千鶴子

折り紙の風船や鶴 引出しの奥の着物 たくさんの手紙 折りたたまれたものを ひろげてみたいときがある それはたぶん途方もなく大変な作業なのに 折りたたまれたもののひだを まさぐっていると それは思いもしなかった形相をして 巨きくひろがり もう収拾がつかないのだ 幼い指で折りこんだものが わたしの指に甦える 装った体のぬくもりが伝わってくる 折りたたまれたことばが わたしをあわてさせ混乱させる 折りたたまれた時間がたちあがる ふと気がつくと ほの暗い部屋に わたしはひとり とり残されている 頭や手足を折りたたみ まぁるい胎児の形をして それを広げようともしないで

*毎日、暮らし、過去、記憶というものは、折りたたまれて、ある、という気がします。 僕らの思い込みに反して、それは決して広げてみることができるものではありません。 むしろ、折り、たたまれ方そのものが、僕らの記憶を呼び、思いをいざなうのかもしれません。
「ぱん・ふるーと」No.33 春日井市高森台3-20-13(森方)

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