詩集「ピアノ」    いずみしづ 著

いっぽんの菜の花

気がつくと ワタシは菜の花畑にいた ぎっしりと花びらをつけた 菜の花たちが 右から左から 押し寄せてくるので 息苦しくなって空を見上げた 空は青い筈だったが 何故か黄色い空が拡がっていた 風が吹いて来ると みんなと同じように 右へ左へ体を傾けた そうすると 甘い香りが漂って 空に浮かんでいるような気がした どこかで鳥が鳴いていた 大きく息をすると海のにおいがした 夜になると みんなでかたまって眠った 目をとじても 黄色い影が右へ左へ揺れていた すぐ近くで水の音がした どこまでも続く 黄色い道を歩いている気がした

*発行 ふたば工房 高知市朝倉乙999、2F
*文字や言葉が生まれる、その根本のところをさぐるような詩が目立ちますが、この詩は何かスコンと 抜けているような気がします。(良い意味で)
 黄色いざわめきに押されていく不条理とある種の安らぎと。

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