路地にて 瀬崎祐

まとわりつくものは はじめから避けておいて もう一度だけ 時刻を気にしてみる 明るさがたりない橋の上では 立ち止まることを恐れていたのだ 昨夜からの水が あふれているはずもないのに こんなやり方に どうして気がつかなかったのだろう お前が旅の仕度をはじめる それから ささやかな酒宴をもよおして 私小説的な物語がはじまる そんな 当たり前のようなわけにはいかないが 慣れ親しんだ家の前をぬけて 石段を上がる  曇り日でも行ってしまうのか 昨夜の雨で苔はまだ濡れているが 後ろ姿で見おぼえたおまえを 左手の仕草でつなぎ止めるのは やはり淋しい 見送りは 路地を二回おれて 突きあたるならばやり直し 粒子の荒れた決意だが 血に染まった指先を流れに浸すことだけは 思いとどまっておく

*瀬崎祐 個人誌「風都市」第4号
*知り合いの詩人、平岡けいこさんが寄稿されていて、送っていただきました。

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