流星雨につつまれて  働 淳

             メイプルソープの写真、Flowers にひかれて 花を描いていると 仕上がるよりも早く しおれ、散ってしまい 微かに部屋に残る香りは カサブランカ? それともトルコキキョウ 町を歩いていて空き地に出会う それまであった、そこに 何があったのか思い出せないが 変わっていく 町や人 むかしの同人誌仲間の訃報を聞かされる 死は突然の電話だ 自分より二歳若い彼女は 五冊の詩集を出していた 詩を書きはじめて十年ほどに   私は、父の死の吸引力に抵抗する力が欲しくて、詩   を書き始めました。そしてそれは、限られた時間の   中で自分のための言葉を手に入れる一番手っ取り早   い方法だと考えました。(*) 父の死の吸引力に抵抗して この十年間、書いていた詩 死と詩の戦い、いや互いに手を取り合い 死と詩の舞踏会が始まっていた 限られた時間の中での 自分のための言葉を手に入れるべく   彼女との最後の会話はふた月前の電話 明日から検査入院だと言い 「そのうち、ゆっくりと手紙を書きますから」と 彼女が亡くなった頃 たった一人の人間をつかまえるため 旱魃のアフガニスタンヘ空爆が始まった 詩を愛する民の身体に容赦なく クラスター爆弾の破片が突き刺さる 彼女が亡くなってひと月後 流星群を見た 夜中に公園のグラウンドの 芝生の上に横になって 絶え間なく降る星を見ていると だんだん自分の体が浮き上がっていく 星に願いを、というが 流れ星は数千の消えた生命に思えてくる その流星雨につつまれた時 あの懐かしい人々にも出会えた 彼女からの手紙は来なかった 微かに残る花の香りは 本棚のなかの五冊の詩集   *田村奈津子「みんなが遠ざかったあとで」より

戻る