砂漠にて ― ベニア・ベス ―
下前幸一
日暮れまで
なにひとつない黄色い砂漠を
あえぎながら歩いた
赤茶けた太陽が
オキのように燃えていた
風は何処からともなくやって来ては
果てのない砂漠の彼方へ身をひるがえしていく
ひとり
耳鳴りのようなざわめきに聞き入った
あれが風だ ―
疲れ切って腰を下ろした
僕の重みに
斜面をゆっくりと崩れて
流れ落ちていく砂の川
ベニア・ベスははるか彼方
砂埃にまみれながら
侵食に耐えている
アラビアの言霊
陸にぬかずいて祈る
白衣の者たちの村
風は何処からともなくやって来ては
果てのない砂漠の彼方へ身をひるがえしていく
ときおり
もやったように地平線が揺らぐ
あれが 風だ
落日に照らされた砂山の陰影が不思議
いま
このときに僕がここにいること
こうしていま
再びこんなにも遠くまで来てしまったことが不思議
あの都市はあいかわらずだろうか
いつもなにかにせかされているような
いつもなにか
見知らぬ行列の中で
身動きもままならない
ニッポンのあの都市
僕はいま
こんなにも遠い
自分からも離れたところで
手のひらで砂と遊んでいる
流れ落ちる砂の
さびしい感触
夏 一九八六
ベニア・ベス アルジェリア領サハラにある小さなオアシスの村
*まだ形になるかどうかは分かりませんが、昔、砂漠を歩いたときの経験を振り返っていて、昔の詩に出会いました。
ちょっと感傷が前面に出ていますが、それだけでもありません。その、それだけでもないというところのものが、おそらく今、僕が求めているものなのです。