土の匂い                      坂本心

枝を切り、そして、燃やす。 リンゴをつくって、終わる一生。 それを、受け入れた人々。 『わげぇーもの、一服すんべやぁー』。 休憩の時、見せてくれた、真っ黒に日焼けした、 その、笑顔も。手のひらにしっかりと、刻まれたその皺も。 僕は、忘れない。絶対、忘れない。 その、手で、土を、耕し。枝を切り。 リンゴを、もぎ。そして、僕を、撫でる。 哀しみなんかじゃ無い。水なのに温かい。 入ったゴミを、取り出すように、 僕の中心から、異物が、落ちた。 午後五時。夕暮れが、リンゴよりも、赤く沈む頃、 泥だらけのまんま帰る。 疲れも、笑い飛ばして、帰る。 『ゴオー』という、曝音に見上げれば、 黄金色した、ジェット機が空を、引き裂いてユク。 飛行機雲が、はじの方から、少しずつ消えてゆく時。 こんなに空が、高い事を、僕は思い、そして、知る。 それでも、飛びたいって思うから、丘に駆け登り、 空を睨み、ちょうどいい風を待った。

*「メロス61」より  発行 水星舎 弘前市富田3−6−13
97年7月号より