更にひたぬれて 松本映
夜が更けるまで 雨は降りつづいて 夜半 言葉をふくらませようと 独り広辞苑を抱いている こころの奥深く あなたが棲んで あなたの声がする そんな気もするのだが 耳をすませば わたしの声だけが わたしに届く 抑圧される側の痛み となりの人とはくらべようがなく 行革とリストラの名を借りて 契約社員 派遣社員 じわじわと 人材派遣が職場に入り込み 呼称の裏側にある搾取の仕組み 人たるに値する生活を支える底辺に労働者 ほんのひとにぎりの人間だけが潤う社会 これこそが資本主義社会 ひたすら雨にぬれ 一滴は わたしの後ろで やさしくひびき まずしさもさみしさも 時間をひきつれて遠くなる ぬれながら 嵐が吹けば あとかたもないわたしが ずぶぬれになって 押しつぶされないよう くらしの底を持ち上げて 見つめている