All right                       佐相憲一

君の原始は今でも新鮮  闇を飛び交う電波の下で  君はネクタイを緩める   見えてくるのはスキップするカラフルな人間だ コインランドリーのような青空に  君の虚無を投げ込めば   “関係”がシャワーに回転する    その痛みを君は除去しないのだ      気になるのは新クラスの顔ぶれだ      った。親しいあいつはいるか、女      の子はどんな子がいるか、友達は      できるだろうか。      関係は次々と爆破され、ランクに      よって解体され、デジタルなマニ      ュアル行程を経た出口には、               何もなかった。   (ここでギャグでも入れてあげたいけどさ   今日はかんべんしてくれよ)                   覚えているさ                 大学合格発表の日           偏差値最高峰と認められた君は            自分に言い聞かせていたんだ    〈こういう場面で人は喜ばなくてはいけない〉 外れていった者  ヒューマニズムに飢えて    〈1990年代〉か シンドカッタゼ 高層ビルの窓を磨きながら君は 中学生の受験指導をしながら君は 建築現場で荷上げ作業をしながら君は カクテルをシェイクしながら君は 自閉症気味の小学生と共に勉強しながら君は 中華料理店で中国人と共に働きながら君は 道路工事のガードマンをしながら君は アジアを放浪しながら君は 深夜の居酒屋でおっさんと語りあった君は 深夜の飯場で友と語りあった君は 社会運動に邁進しながら君は 自律神経失調症に苦しみながら君は 横浜、湘南、川崎、東京、京都、大阪、 いつだって君は 努力家だった  ユーモアだって忘れなかった けれど ついに          スキップできなかったんだ! (ここでR&Bかオカリナを聴きたいが  今日はバックグラウンドミュージックはなしだ)       ゴマフアザラシを見てきました。       稚内から2つ目の小さな駅に降り       たのは私だけ。氷点下15度の吹雪       に打たれながら私は海へと歩きま       した。迷っちゃってね。凍えなが       ら50分程歩いたでしょうか。突然       青空が広がったんです。ゴマフア       ザラシ!目の前に沢山ゴマフアザ       ラシ!詩を書くヒトなのに私には       あの感動を表現する言葉が見つか       りません。涙をためて自分が微笑       んでいたこと。それが“詩”だっ       たのかもしれません。帰路、電車       を待ちながら駅のノートを開いて       みました。思わず“ああ”と言う       のを許して下さい。何日かに1人       ポツリとメッセージが書かれてい       ます。多くはゴマフアザラシ・フ       ァンで、ひとりはるばる来た人も       恋人と来た人も、ゴマちやんに会       えた喜び、会えなかった悲しみ、       を素朴に綴っているのです。私も       綴りながらウルウルしちゃいまし       た。人間!人と人の間に人間が見       えました。詩が見えました。            さあ9回裏2アウト満塁、一打サ            ヨナラの場面。マウンドは力投を            続けるエース・黒木、打席は主砲            中村、パ・リーグを代表する力と            力の対決です。2人はライバルで            あり、友でもあります。いやあ、            解説の佐相さん、名場面ですね。            「シビレまんなあ!             私は実に彼らが 羨ましい!」 〈失われた世代〉にもなれないバラバラの君達  時代に混乱させられ続けて  ビールの流行よろしく〈ドライ〉を演じてきた だが 今 青空の下で   “関係”を洗いながら者は    “痛み”を徹底的に見つめている 諦念を超えて 混沌を超えて  〈傷つけあえよ〉を超えて   君の原詩が現在色に蘇る時    スキップするのは            今日からの君だ。

*「すきっぷ現詩人」
 発行 大阪市浪速区敷津西2-14-17シティKY501
*20〜30代の詩人たちによる同人誌です。「すきっぷ現詩人」のマニフェストのような詩でしょうか。 いろんな意味で、くたびれた現代詩を突き破りうる「若さ」を感じます。

戻る

ホームページ