詩集「あまみの羽衣」 沢孝子著
花器のようなミズウミにある水の儀式
花器のようなミズウミの水の儀式で 共同体の古代を凝視する 透
きとおってくる北の街に 思いだすのは裏返る葉のような南の顔で
ある 水酔いでくらす朝は あまみの羽衣の舞ではじまり 波襞に
みだれる夜は 島の歌がわく文化の余韻にひたりきる そのときめ
きにかならず 覆ってくる剣山の針のような歴史の「薩摩」の山が
ある 花器のようなミズウミに浮き沈みして のぼりつめてきた茎
の無知 離れない月夜の孤独で先祖返りする その波襞のつぶやく
ながれに「飢えているウニ」 突きさしてくるのは「真の一系」と
いうナゾの男根の真髄であり 一枚の葉の記憶に裏返ってくる 水
の儀式に犯された砂糖小屋のながれがよみがえる 今 思いだし
砂浜の共同体へみだれていく習慣のくらさがあって 水酔いのくら
しで急激な波襞の起こるのを待っている ざわめいてきた砂浜の炎
の歌 その手触りにひたる北の街は 充実してくるあまみの羽衣が
舞う朝となる 文化の余韻にしみる島の歌の夜となる 南の顔の裏
返る葉のような「飢えているウニ」の内側 ざわめいてきた砂浜の
波襞に 剣山の針のような歴史の「薩摩」の山が覆いだして 水の
儀式の外側へ裏返る葉のような南の顔に ナゾの男根の「真の一系」
という真髄が突きささる 無知の茎にあるみだれは 離れないでい
る月夜の孤独で先祖返りする 安定してきた北の街の水酔いのくら
しにひろがり 一枚の葉の記憶に裏返って 透きとおってきた南の
ウニがなしの犯された砂糖小屋のながれ 花器のようなミズウミで
浮きしずみする 習慣のくらさでみだれる砂浜は 立ち上がれない
茎の無知の悲しさとなり その夜這いの共同体の古代を凝視して
歌いだしているみだれがある
花器のようなミズウミの水の恋情の儀式で 近世の世界を割ってい
る 四季ごとの北の集落の水酔いのくらしがある のぼりつめてい
た茎の無知には したがっていた虚構の花のわざの別れがあり 荒
れくるっていた波襞 あまみの羽衣が舞う古代の余韻にひたり 歴
史の「薩摩」の要領のよい刀に切り落とされていく 裏返る一枚の
葉のふるえがよぎってくる 雪の峰をかぶとにしている北のナゾぶ
しょうの寒色に 孤独の三日月をひしと抱いた そのはげしい波立
ちに透きとおっていた 南の踊りの充実には 「真の一系」という
ナゾの男根の真髄に のぼりつめていた茎の無知がある 花のわざ
の別れの虚構にしたがって 一枚の葉の記憶に裏返るふるえで散っ
ていく 四季ごとの寒色 北の集落の花器のようなミズウミの水の
恋情の儀式に 切り落としてくる要領のよい歴史の「薩摩」の刀
裸足が微笑む南の踊りの内側には 人身売買という砂糖物語 今
思いだして 水酔いのくらしに覚めて浮き上がっていく 軟弱な
「飢えているウニ」の南の踊りの外側には 「真の一系」というナ
ゾの男根の真髄が突きさして 古代からの波襞に荒れくるう 何か
異変が起こりつつある 一枚の葉に裏返る記憶の微笑み 裸足の砂
浜にふるいたって 人身売買という事実が残した 孤独の三日月を
ひしと抱いてくちづけている「飢えているウニ」の炎 その古代の
砂浜の炎の響きは忘れない ずるずるとたれている雨の 無知の茎
に舞うあまみの羽衣 しみてきた砂糖物語の 近世の奴隷の世界を
割って 踊りだしているくるいがある
1996年11月号より
思潮社刊 2400円
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