『通貨危機を生み出す世界経済システム』
池野高理著
人民新聞ブックレット 人民新聞出版部 1000円
大阪市港区港晴3−3−18−2F
06(572)9440
バブル経済、不良債権、アジア経済危機、金融ビッグバン、財テク、ホットマネー…。
かつては見慣れなかった言葉が日々新聞をにぎわしている。そして、なによりも僕たちが驚くの
は、何兆、何十兆、何百兆円という話題に上る金額の巨大さだ。実体的な経済の頭上をはるかに、
投機的な金融経済が膨張し、それが実体経済を支配する。これはいったい何なのだろう。
かつて経済はモノやサービスの生産を通じて、金が流れ、あるいは利潤を生むというものだっ
たのだけれど、いまやモノやサービスの生産という負荷を素通りして、金が直接金を生むという
不思議がまかり通っている。それとともに、モノやサービスの生産に関わる人間関係はすっ飛ば
され、人間関係は消費者としての損得に還元されるほど痩せていく。
池野氏の著書はこのような状況に投じられた貴重な一石だ。消費者としての損得計算を吹聴さ
れて、誰もが自由化、規制緩和や金融ビッグバンに両手をあげているからだ。その根本にはどの
ような問題が横たわり、この資本主義の変態ともいうべき事態によって、僕たちはどこへ向かお
うとしているのか。そのことについての視角を与えてくれる。細かい疑問点や、素人ゆえに分か
らないことも多々あるけれども、現代というものを考えるとっかかりとしてとてもよい解説だと
思う。
アジア経済危機や累積債務問題を発端にした現代の資本主義の概括的解説に比べて、最終章の
「さてそれではどうすればいいのか」という問いに対する答えがとても平易なのも筆者の誠実が
感じられる。それは現代世界の状況と、僕たちが日々あくせくと暮らす現実とのめまいのするほ
どの落差に見合っている。一足飛びに大きな事を言っても大した意味はない。たとえ難しくても、
それぞれの小さな現実を考えることから、世界的な状況へと届く思想や行為や言葉を見つけださ
なければならないということかもしれない。
(下前幸一)
*人民新聞の方から求められて、感想文のようなものを書きました。冊子について購入方法など詳しくはインフォメーションをご覧下さい。