深層ファイル―敵    藤沢やすゆき

          置き石が 生き物の顔をしているのに 気付いたのはそれほど前のことではない 頬の豊かな老人の顔にも 鋭い牙を隠した虎の顔にも見える 電話の途切れる時 喋り好きの同僚がトイレに立つ時 植え込みの中からこちらを窺っている 幸い 視線は事務所をそれ 自転車置き場に据えられて まともに目を合わせることはない    「会社はこの職場を下請けに    委託したがっている・・・・」 人の遺伝子に組み込まれた 敵と味方を識別しょうとする本能 僅かな目の動きすらも 見逃してはならない そうやって 遠い祖先は 食い物を分けてもらえるのか 食い殺されるのか 見極めてきた まだ 置き石の顔は こちらを向かない

*「私鉄文学」47号 千葉県野田市桜谷127-6 鈴木方
*私鉄総連に加盟する組合員による文学運動として発行されています。 自らの労働者性を意識した詩は最近あまり目にすることがないので、新鮮です。

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