捨てる 玉置幸孝
もう古くなって 体に合わなくなった義足たち 軍時代の肩吊り型の旧式をふくめ 物置きの奥に三、四本もある 邪魔になるから捨ててはと 妻は幾度もうるさくいった だが古靴でも捨てるように そう簡単にはいかない 大型ゴミの指定日に出すとしても これは何んだと近隣は驚き ああ、あそこの跛さんだとわかれば 蔑視のうわ塗りをうけるようなものだ。 どこかの遊覧船にでも乗って 海にこっそり捨てようかと考えたこともある いつかは捨てなくてはならない 人間 必ず一度は死ぬように。 だがあまり深刻に考えることもないだろう 俺本体 幸運にも生還してはいるが あの赤紙のときすでに 海の向うに捨てられていたのだから――。