捨てる          玉置幸孝

              もう古くなって 体に合わなくなった義足たち 軍時代の肩吊り型の旧式をふくめ 物置きの奥に三、四本もある 邪魔になるから捨ててはと 妻は幾度もうるさくいった だが古靴でも捨てるように そう簡単にはいかない 大型ゴミの指定日に出すとしても これは何んだと近隣は驚き ああ、あそこの跛さんだとわかれば 蔑視のうわ塗りをうけるようなものだ。 どこかの遊覧船にでも乗って 海にこっそり捨てようかと考えたこともある いつかは捨てなくてはならない 人間 必ず一度は死ぬように。 だがあまり深刻に考えることもないだろう 俺本体 幸運にも生還してはいるが あの赤紙のときすでに 海の向うに捨てられていたのだから――。

*反戦反核平和詩歌句集 第十七集『憲法有事』より
  核戦争に反対する関西文学者の会 堺市今池町6-6-9、犬塚方
*こういう集会的な詩集から一つの詩だけを紹介するというのもどうかな、と思うのですが、特に印象に残った詩を紹介しました。

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