ティミムーン 下前幸一
石油ランプの白い炎 深い闇に押し包まれた 休憩所の一軒屋 夜一〇時 言霊は内省している サハラ 夜の砂漠の 刃のような月 ほとりに 僕はいた すぐ傍らに 黒人の女の子がちょこんと座っていた 休憩所の明かりを離れて 闇にさざめく砂の波音に耳を澄ませている 背後で交わされる 男たちのくぐもった会話 冷めた砂が心地良く 砂の中に足指をもぐらせた 前方は果てのないサハラ 底知れぬ存在の 無限のざわめきに 思考はすでにさらわれて 跡形もない * 午前三時 ティミムーン 野宿の夜 バス停付近にうずくまる 人影ひとつ、ふたつ ランドクルーザーで乗りつけたゲイの男が 人影をあさっている 風に晒されて 徘徊する 浅い眠りの 眠れない 私たちの世紀の縁で 風はサハラから 痕跡の微粒子を吹き付ける 割れた前線 座礁した設計 埋葬された殺意 どのような夢にいたのだろう どのような場所で どのような言葉に連れられて 三段跳びの構築へと向かったのだろう 翻る旗 目覚めるピープルの 群衆的な欲望の孤独のただ中で 価値としての自らを そして僕は言うのだろう 不可避の選択の 不可逆の 成長への匍匐前進に そして今 闇のオアシスに匍匐し 欲望のほのかなかがり火に 僕は目覚める ティミムーン 赤砂の漠