小さな漁村の童話
シュティン・田端宣貞 訳
私の童話は一枚の白紙です。
あなたは注意深くそれを折って、言う
君に一篇の詩をお返ししようと。
その時から私はいつも推し量っている
あなたの優しい気配りの中で
何か私が見落とした暗示はなかったかと。
どの岬のことを書いたのだろう?
物淋しい漁村には中世の遺跡のようなところがある。
村はずれの小さな林の中で
私たちは蟹を焼き、われがちに食べた。
あなたの指は
砂浜になんという字を書いたんだったか?
私は覚えていないけれど、知っている
私が太陽の下でぐっすり眠ったこと、
顔の上にあなたの白い帽子を被せていたことを。
あの砂浜のこと、あの夜の満潮のことを書いたのか?
林檎の木は一滴一滴月光を集めていた。
あなたは海岸線を指さし、私に求めた
すべてを(本も舞踏会も懐中電灯も)ほって、
一緒に放浪することを!
そこで、私はあなたの着物のはしを引っ張って
浅い水の中を長いこと歩き、
そして燐光が蟻のように見えている岩の先で
いつまでも座っていた……
私たちはもう共同で
その詩を完成したのです。
*<索>第20号 坂井信夫個人誌より
田端さんは最近、中国現代詩の邦訳に力を注いでおられるようで、よくお見かけします。
作者のシュティンさんの漢字は日本語にはありませんので、読みだけで失礼しました。
記憶とは、他ならない童話であり、誌であるということ。
思い出とは、詩があらゆる人々の中で生きる一つの形態であるということ。