地下鉄は天下茶屋をめざして進む      モリタクミコ

                 「こんな顔やったら、人生思いどおりやな」 コンタクトレンズの広告には思ったとおりの笑顔 ノースリーブのオキナメグミと目が合った 「オレにはわからん」 「ぜぇったい、思いどおりや」 それだけでイラつく こんなにすいてるのに、なんで 立ったまましゃべってるのよ ラッシュの後の地下鉄だから くつろいでたのだから 「若いだけやんか、たいしたことない」 と、ドアの近くのおばさんが言った あんたら若い子しか見えてへんから知らんやろ なんで世の中、顔だけで渡っていかれへんか教えたろ この子でもあと三年や 二十二歳の美人より 十七歳のブスのほうがモテるんや 自分らは 松本零児の漫画みたいな顔して おまけに、そっち。ウチマタのくせに 「それはあんた、ちょっとちゃうよ」 わたしの横のおばさんが立ちあがった。 「顔のこと言うたら、おんなじレベルやわ」 「それにちょっと古いです。そのこたちがオタクでも」 と私も一言そえた 「ほんまそうやったな」 最初に口をきったおばさんは私たちの前にやってきた 「私は団塊の世代やけど、あんたらもっと若いやろ」 「あんまり変われへんわ」 「あんたは? 若いんか」 「いいえ、職場でもすでにおばさん扱いされてます」 「おばちゃんになるのもワルないで もとが美人でもブスでもただのおばちゃんやし もう上がったから避妊せんでもええし」 「それはあかんよ、閉経頃は不安定やし エイズのことも考えな」 松本零児の漫画のような男の子は「日本橋」で降りた わたしは「天下茶屋」で降りた おばさん二人は折り返して「正雀」行きに変わった車両で はなしを続けていた

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