詩集「地球は貧乏ゆすりをする」 羽生槙子 著
銀座・秋
銀座なら
どの地下鉄ロから どう地上に出ても迷わない
若い時 関東へ出て来て勤めたデパートがある街
銀座を歩いて
画廊の一つにふらりと入って絵を見る
一軒一軒画廊に入っては出て 絵を見て歩き
画廊の持ち主の個性を感じてその街を知った若い日々
昔勤めていたデパートに入る
買い物をし 軽い食事をし コーヒーを飲む
デパートの中を歩くと 、
勤めていたころの同僚が
恋や失意を織りなしていた若い時の顔のままで
店員の中にまじっていてもいいような気が 必ずして
立ち働いている人々の顔を見る
その若さを見 若い人々に幸せあれと思う
そして 秋の服を合わせてみようと 鏡の前に立つと
老齢のわたしがいる
そのわたしを 若いわたしが見る
わたしの秋
老いているのが今のわたし
老いと真正面から向き合う時が今
年をとっても やさしい心を捨てないで
年に似合う優雅さを心に備えて
晴れやかに秋の街の人ごみにまじって歩きなさい
鏡の中で
若いわたしが 年とったわたしにそう言っている
そうね と思って 秋の装いの街に出る
地球は貧乏ゆすりをする
98・3・27 朝日新聞朝刊から
名古屋大、東京大、東京工業大の研究
27日発行の米科学誌「サイエンス」に発表
地震のない静かな時でも
地球はいつも貧乏ゆすりをしているんだって
みんな知ってた?
地表での振幅は百万分の一センチほど
周期は数分のゆっくりしたわずかな揺れ
地震以外の原因で地球が振動することが発見されたのは初めて
原因は上空の対流や風 地球の表面付近にあるとみられ
大気の変動によって 地球が太鼓のようにたたかれ
自由振動を起こしているとみられる という
学者は
「内部だけでなく地球を大気までを含めた
一つのシステムとみることの重要性がわかった」という
ああ 地球は太鼓で
風やなんかがいつもトン と太鼓を鳴らしているのか
さびしいような
地球がいじらしいような
つまりでんでん太鼓を
あきないで鳴らしている赤ちゃんは 風?
いいえ あれは宇宙の巨人の赤ちゃん
その子のために地球はやさしい太鼓になって トン
トン と大気と響き合う
大気を含めて地球まるごと一つのシステムなら
地球が揺れるたび ほんのわずかだけれどきっと
わたしも ピョンってはねている
なわとびほどじゃないけどね
気がつかなかった
いままで
*詩集「地球は貧乏ゆすりをする」 発行 武蔵野書房 国分寺市本多2-9-8
*ふと題名を見たとき、羽生さんがいつか書いておられた地雷のことをテーマにした詩かとおもったのですが。
科学が詩と交差するところに、ひとつの童話が生まれています。発行されている詩誌「想像」の精神に通じているようです。