突堤に 下前 幸一

                                 思い出の石階段で 反復する 私の荷物を傍らに 浮かぶ記憶 ゼネコンのODA 埋立地のテトラポットと 死んだ海 『NO ENTRY』 立ち止まり 目をみはりつつ 澱みの岸で聴いたのは 朝の目覚めの それは潮騒だったのかもしれない 過ぎ去った子供時代の 朽ちていくコミュニティーの 連帯のヘドロ 『SOLIDARITY』 連帯のために SPFTCのジジよ どれだけの言葉を残さなければならないのだろう 軋む熱帯の 空気の 焦げた斜面に 張りついたまま動かない マンゴー樹の陰 エイミーの小屋に ひしめく十人の子どもたちがいる 貧しい現代の小作たちよ マンゴー樹のざわめきの中 私はエアーポケットを落ちる 私の荷物と どのようにして言葉は届くことができるだろう 遠ざかっていく光景と 記憶と 私自らの思いと 沈黙に充満する 散乱する意志に 生まれる前にいた場所の 逡巡と 不定形のギャップに ヴィジョンに場所を持つために 詩は戻らなければならない ひっそりと静かな 石階段で 私の荷物を傍らに 見えない潮騒の 突堤に 私たちはいた   SPFTC:「フェアトレード・南のパートナー」     フィリピン・セブ島のフェアトレードのグループ

「新・現代詩」2002年夏号(No.5)に掲載されています。

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