watercolors 久坂夕爾

                 海は 火に包まれたような彩色の極みを まっすぐに転げ落ちた色をしている 気を許すとすぐに入れ替わろうとする昼と闇 底には小走りする魚たちをかくまって 失ったものが失ったもののまま 冷たい水滴のなかを 小さく丸まって眠る (水の表皮をずらりと埋め尽くして) たとえば 一行の文字にさえなれないさびしさのなかを ほら 一羽の水鳥が 読みさしの本のかたちに波を開いていく けれど 時間の塊を異物のように抱え込んで あらゆる問いかけにも 海は ずっと無言のままだ

*インターネットから飛び出した文芸誌
文芸ホームページ『アヴァンセ』のメンバーによる文芸誌です。

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