よるべなく      富沢智

                       生きているから 何とかしようと思って 降り積もった雪をかいた やがて消えてしまう 大量の重みを それで終わった一日は 恥ずかしいほど身体が喜んでいて 日記もつけずに寝た こんなことで よかったのだろうか 誰をもとりこにする 神様からのことばなんて その日も降ってはこなかった 夢のいくひらかが 舞ってはきたが 立ち上がるだの 突破するだの 殲滅するだの いさましげなことばは嘘でした ただ生きていることだけを望み 望まれていることの驚愕 世紀末だからといって とびきりの快楽があるわけじゃない 殺したての魚を食べ 殺してほどなくの獣を食べ 穀物や果実で造った酒を飲む 生きているから しみじみと美味しい 平和で善良な暮らしをまっとうし かたえを駈け抜ける殺人者を畏れる この よるべなき日

*富沢智個人誌「水の呪文」より
  〒370-3504 北群馬郡榛東村広馬場1371
 春に「全国同人詩誌展」を開催され、8月には誌の図書館「榛名まほろば」を開店されるそうです。

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