作業服                  よしなりまこと

工場の窓から差し込む陽光のなかで 銅の微塵がびっしりと舞い チラチラ光る 微塵が何の抵抗も無く 空気とともに肺にはいる 指示された製作伝票を見て 仕事を切り換える 潤滑油を抜き伸線機の蓋を開ける 機械のなかは銅粉と油の汚れと匂い 製品を造るダイスを 細線から太線用に換える 太線から細線用に換える 銅線を真鍮線に 真鍮線から銅線に 毎日何回も切り換えるわけではないが 作業の度に汚れる作業服 汚れた服と作業用の下着 まとめて持ち帰る 家で嫁はんが洗う 風呂の残り湯使い洗濯機で洗う 落ちるのは銅粉 落ちにくい油と銅粉の混合した汚れ 会社の仲間がうんちと呼ぶ奴だ 洗濯機の脱水から出た水を バケツに貯めると 銅の粉が底にのこると嫁はんは言う 会社の風呂にも入らず帰ると おれを銅の臭いがすると嫁はんは言う 三十年働き続けた処だから 銅の微塵を吸い続けたのだから 銅が皮膚に染み付いた身体だから おれのからだ 銅の匂いもするだろう 洗う服も汚れているだろう ただ、汚いなどとは言うてくれるな 定年を越え嘱託で働く身が あまりにも寂しいではないか

*異郷7月号より   堺市今池町6−6−9 大塚方
97年7月号より

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