夕張よ 佐伯孝介
温い血と 小さな動く心臓が 好きな 夕張よ いつも 腹八分で健康を気づかっていたお前なのに 霙が降ったら 気でも狂ったか 腹一杯 真赤な炎にして 鼻の穴一杯 吹きだした 煙 お前の主人(あるじ)は驚ろいて いつもは 嫌って吐きだしていた 水を 口から 鼻から 注ぎ込んだ お前の好きな 男達を お前の 腹に 入れたまま―― 夕張よ お前が 喰った男達は お前と共に生きてさた なのに おまえは お前を 食って太ってきた 主人のために 夕張を愛し 炭鉱(やま)を愛し 夢と 情熱を お前にかけた 男達を いかに 主人のためとはいえ いかに 主人が手当てを惜しんだとはいえ 生きた 生命を 〈飲み込む〉とは 夕張よ 夕張よ お前に心があるなら お前に 男達の愛が わかるなら 応えておくれ 愛する夕張よ