幽霊だった私たち フィリス・ホーゲ                 訳 横川秀夫

                            湿り気の多い十二月の今日の午後 手の届かない場所に生える、背の高いシェル・ジンジャーの群々は、 おだやかにそして祈りのように静かに、歩道の上におおいかぶさっていて。 だけど、かつてはここでたがいに平穏にしあわせにとろけあったのに あなたと私は遠く離れた世界の領域で 今は離れて生きているものだから 私とあなたは海と陸や国土などよりもはるかに隔てられて いるものだから、私たちの精神が見つめる 私とあなたの中間にあるその場所に、冬があると私は考えるのです 夜が来て。私たちがそうであったようにこうした幽霊たちは 眠ることがなく、大陸中央部のブリザードの 強風の中を耐えて進み、西と東という 両方向に消えていく鉄道が見える 積もり積もった吹きだまり雪の彼方に立ちます。 幽霊たちは木々と同じように凍えていることは確かなことです。 幽霊たちは待ちます。と、線路が枕木の上で鳴り響きはじめ、 そして、枕木たちは沢山の貨車の重量を支え、 鐘は騒々しく鳴り渡り、そして濃い雪の薄片をとおして彼方前方に 回転灯は明るい光線を送り、それから幽霊たちは手を握り、 大地は震え、線路の踏切で列車は悲しげな音をたてています。 そして幽霊たちは自分たちには戻ることの出来ない線路を長い間凝視しつづけているのです。

*横川秀夫個人誌「東西南北」53号より
訳者注 難解中の難解。訳文は原文をかみ砕き、原文に逸脱しない範囲に於いてかなりに説明的部分を付け加えざるを得ませんでした。鑑賞のためのヒントは、「幽霊たち」という表現を仮に「愛の終って別れ別れになっている昔の恋人同士」と読みかえてみてください。別れた後もたがいに誇りに思い尊敬しあっている、というシチュエーションに立っています。その上に立って全体を何度も俯瞰し分析し総合してみてください、美しい世界が開かれています。

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