詩集「周辺の人々」  矢口以文 著

小さい道

昔々(むがーすむがす)がら あぞごの原っぱさ
曲がりくねったちゃっこえ道が一本(えっぽん)
隠(かぐ)れでえだのっしゃ
そえずを初(はず)めで見つけたのが
村このはずれに住む次郎(ずろ)ちゃんなのっしゃ
ある時(どち)遊んでえだら 変なもんが
落つてえる トカゲ(かなげちょ)の
尻尾(すりっぽ)じゃねえべがと思って
つまみあげようどすたら
道の端(はず)っこだったのっしゃ
まんず こんな所(どこ)さ
道の端っこが隠れえだなんて
知らな(しらね)がったなあ
何時頃(えず)から隠れてえだんだべと思って
原っぱを毛布みでえにまぐりあげでみだら
奥のはうさ ずーっと
這って行(う)ってるんだ
どごまで行ってえるんだべと思って
次郎ちゃんは這ってついで行ったんだ
そすたらその道は原っぱの上さ

出だり まだもぐったり
ぐるぐる回ったり 道草(みづぐさ)食って
ちっちゃな流れのそばさ立づ止まり
どじょっこと遊んだり
ちょうちょば追っかげだりすて
やっと原っぱば通り抜げ
今度はそのとなりの林(はやす)の中さ
もぐりこんで行ったのっしゃ
もづろん次郎ちゃんはこっそり
ついで行ったのっしゃ

そすたらそれは木(ち)ど木(ち)の間を通り
りすっこだの きつねっこだのを
追っかげだりすながら
少すづづ登って行ったのっしゃ
キノコ(ちのこ)の匂いを嗅えだり
あげびの木に登ったり
つるっとすべる岩にとびのって
尻(けっつ)ばつえだりすながら
口笛(くづぶえ)吹えだりすながら
少すづづ登って行ったのっしや
やっとずっと上の方まで登るど
岩が壁みでえになってえだのっしゃ
んだげっとも その道は
蛇みでえにするする
登って行ったのっしや んだがら
次郎ちゃんも負げねえで登って行ったのっしゃ
頂上さ着えだら びっくりすたごどに
道はどごにもねぐなってだのっしや
んだげっとも 大きな(おっち)空が降りでちて
大きな(おっち)腕で優すぐ抱えでけだのっしゃ

矢口以文詩集「周辺の人々」
発行 知加書房 横浜市港南区港南台5−10−1

※アイヌの世界を表現した詩が柱になっている詩集ですが、詩集の後半に出てくる方言の詩が、なまめかしく、魅力的です。