ダハズ農園にて



石垣市平得大俣(ひらえおおまた)
開南(かいなん)十字路から
自衛隊ミサイル基地予定地へ
生い茂る藪をかき分けるように
軽トラを走らせた

行き止まりの場所には
「ダハズ農園」の手作りの看板
「農園だはずよ」
たぶん農園ですよ、という
ゆるやかな自称

森の中の生姜の畝
尖った葉のバイナップルと
インド藍の小さな丸い瞑想
観葉植物の
前世紀のささやき

藍を育てて染料をつくる
藍を育てて紅型(びんがた)を染める

娘の誕生を祝う
インド菩提樹の苗木
今は十メートルにも育った
節目節目の家族の肖像
長い旅が終わりまた始まる場所

曇り空からまた
微かな雨が降りてきた
霧雨がダハズ農園を押しつつむ
濡れた生命が息をつき
森の方から夕暮れが忍び寄る

何の告知もないまま
唐突に知らされたのは
基地予定地に組み込まれていること
八重山毎日新聞の配置図で

所有者の知らないままに
もてあそばれるように
農園の運命が決められる
「国の専権事項」という名のもとに

自分はアンチ・ミリタリズム
反軍国主義、反軍備、反軍拡で
自衛隊基地にも
土地調査にも協力はできないと告げたのに
返答もなく、なしのつぶて

ある日、農園のそこここに
伐採の跡と杭
枝には目印の赤いリボン
いつ、だれが
なんの目的で

ダハズ農園は
たぶん農園ですよ、という
ゆるやかな自称
人間が自分の都合で決めるのではなく
自然と一緒に決めるのだ

北の方から
今年もさしばがやって来た
於茂登岳(おもとだけ)のどこかで鳴きかわす声
しばらく休息し
さしばは南へ向かうだろう

ミサイル基地ができたら
風景の変わりように
さしばは迷うだろう
コンクリートに閉ざされた
固い地面に怯えるだろう

これから私たちは亜熱帯の冬へ向かう
基地のない石垣を求めて
基地のない沖縄を求めて
特別な場所の
大切な菩提樹のかたわらで

藍を育てて染料をつくる
藍を育てて紅型を染める


※2018年11月9日、沖縄防衛局の職員が木方さん(所有者)方を訪れて、業者が無断で立ち入って、樹木の伐採や木杭の設置を行ったことについて謝罪をし、発注者としての責任を認める謝罪文を提出した。農園の土地に関しても、今年に入ってからの測量業務の発注段階で除外していたにも関わらず、「説明をしていなかったことは、貴殿に対する配慮が足りず、深くお詫び申しあげます」と陳謝した。