ダンボールの空に
                                      下前幸一

前線が接近している
寸断された一月の視界に
雨が降っている

強制排除の恫喝にさらされて
今頃、長居公園のテント村では
野宿者たちの影がたたずむ

公共空間という排斥
自立支援という
選別と棄民

自己決定、自助努力、自己責任
「自」という孤立の周辺に
激しい雨が降っている

雨に濡れた
ダンボールハウスは沈黙する
ブルーシートの染みは沈黙する
軒先の布団は沈黙する
コインロッカーの全財産が沈黙する
冬枯れた
河川敷の樹木は沈黙する
吹きさらしの深夜二時が沈黙する
ハローワークは沈黙する

執行者によって与えられた名づけや
名づけという隔離にさらされて
沈黙が口をつぐむ

   *

生きるための
場所

居場所

寝る場所
食べる場所
営みの
心を横たえる場所

が、
撤去されていた
痕跡は抹消されて

施錠されていた
隠蔽されていた

傍観者のバリアに遮蔽されて
今、
そこにはなにもない

公共空間のからっぽ
街頭オブジェの暴力
そこにはなにもない

しんしんと冷え込む足元に
漠然とした不安が忍び寄る

形にはならない
昨日の記憶を訪れる
凍える気持ちを傾けるようにして

寒い日、大輪祭り
「地球に寝てる」野宿詩人
橘安純が死んだ仲間をうたっていた

路上に
地下茎がはびこる

そことこことは意外に近く
そして僕たちのあいだに
とらえどころのないものがはびこっていく

分からない明日

痩せた現実

炊き出しの粥

ダンボールの空に