行政代執行
下前幸一
お地蔵さんが泣いていた
ご神木の根方の
苔の居場所を剥がされて
お地蔵さんが泣いていた
くやしさに震える
細い腕に抱かれて
行政代執行の朝
大勢の職員や作業員に囲まれて
菜園は沈黙していた
エノキのご神木は立ち尽くし
音もなくざわめいていた
菜園の背後には
第二京阪道路の
要塞のような橋脚が聳え立ち
威圧の影を投げかけていた
抗議の声を断ち切って
代執行の宣告と
なだれ込むヘルメット
ぎりぎりと
バッタは羽を震わせていた
東の太陽は
雲間に身をすくめていた
青虫の静か
アブラムシの描線と
バクテリアのひしめき
地中細菌の新陳代謝
深く限りない命のマンダラ
落花生の
黒土のまどろみを
行政の軍手が引きちぎる
次々に引っこ抜かれて
運び出されていく
ごぼう
ねぎ
園児たちのさつまいも
菜園の営みと
遠いはるかなざわめき
聞き置くことは
聞き捨てること
いくら言葉を尽くしても
宙に言葉は収用されていく
僕たちの喪失は
裁定された喪失だ だが
いったいなにが
どのようにして認定されたというのか
十月十六日午前十時
菜園は閉鎖され
跡形もなく整地された
強制収用された記憶のあとには
道路
ふざけるな!
と僕は叫びたかった
聳え立つ既成事実に
問いかけが跳ね返される
デジタルカメラの目撃に
どんな意味があるだろう
点々と
かすれがちに羅列する毎日の
意志の持続に
どのような意味があるのだろう
五百年の開墾と
伐採されたご神木の
寡黙な異議が
コンクリートに埋められる
ふざけるな!
と僕は叫びたかった
春に菜の花
秋に彼岸花のまぼろし
季節の痛みを一身に集めて
お地蔵さんが泣いていた