母の指先
玉野井徹
還暦をむかえたばかりの ひどい二日酔いの朝
のびすぎた髭の せめて先っちょだけでも整えようと
使いなれた小さなハサミで チョチョッと切ったつもりが
くちびるの先を剪定してしまった
チクッとして けっこう流血して 酔いがさめて
何かに集中すると口をとがらす癖は 小さな子供のころからで
横からそっと押えた 母の冷たい人差し指の感触を思い出した