韓何雲詩全集「麦笛」 訳・河田いこひ
罰
罪名はらい病やみ
これはまったくとんでもない罰だ
どんな法律のどの条項にもない
この罪を弁護する道はない
昔から
ひとがおかした罪は
ひとが罰を受けた
だがわたしは
何もないこの空の外側に立たされるだけ
罪名はらい病やみだと
これはまったくとんでもない罰だ
手の指一本
ゆうべ凍てつき
手の指一本
頭を騒いて地に落ちた
この骨一本肉ひとかけ
襟を裂きとりだいじに包む
白いほうたいさらに巻きポケットへとしのばせる
やがて日差しがぬくもれば
南山のどこか陽あたりをえらんで深く土を掘り
深く深く埋ずめてやろう
いのち
ごみ箱と
ごみ箱と並んで坐って
夜あかし。
まばたきほどの間に
死にそうだった。
まばたきほどの間に
まだ生きているいのちがくねくね翻弄された。
へその下に手を置けば
三十七度の体温が
一尾の腐ってゆく魚のようにどろどろとつかまえられる。
ああひとつしかない
わたしのいのち
まだ空の星のようにくっきりしているのに。
韓何雲詩全集「麦笛」 訳 河田いこひ
出版 はんせん舎 fax 052(777)1854
河田いこひさんの訳によるこの手作りの詩集を、僕は新日本文学会の磯貝さんの紹介で、送っていただきました。韓何雲(ハナウン)という詩人は、韓国では国民的な詩人だそうですが、うかつにも僕は知りませんでした。
1919年生まれ、ハンセン病を発病し、療養の中で詩作を行ない、1975年没。
ハンセン病の病苦へののろいと悲しみを詩に託してうたっていますが、その一方でのたうちまわるような煩悶の末に、次のような美しい余情もあらわしています。
わたしは/わたしは/死んで/青い鳥になり/
青い空/青い野原を/飛びまわり/
青い歌/青い叫びを/さえずりまわろう/
わたしは/わたしは/死んで/青い鳥になろう