いつか不確かな空に
いつか不確かな空に
走る九月の
見えない破線と
反響する
全てである
無音の
スローモーションが
かき消える時
騒々しい静寂が止まる
ガードレールの血
浮かぶ青天
とても暑い夏だった
まといつく日々のゼラチンに縛られて
身動きもならない夏
二〇〇一年、新世紀の鬱
このまま全てが萎びてしまいそうな
緩慢な滅びの予感に苛まれ
下落する、夏
届く言葉もなく、ただ
日々の停滞に澱み
埋葬する、夏
いたたまれなさの痕跡が
ただ疼きを、
疼く
ここでは
見えないものの方がずっと多い
*
九月一一日午後十時
青天の朝
時が炎上する
世界貿易センタービル
直進する機影が
無音の視界に激突する
映像が意味を圧倒し
静かに崩れ落ちる巨大な構築の
砕け散った意味の屈折に
感情が立ちすくむ
見たこともないものが
消失のただ中で
自らを目撃する
マネーパワーが虚血する
*
テロルよ
自らを神の下僕になぞらえて
至上のテロルへと殉教する
虚の焦点へと激突する
コックピットの
孤立したコーラン
純化した言説の
乗客を道連れにした
カミカゼ
世界を二つに裁断するジハード
激突の向こうの天国は
すでに燃えた
アラーは消えた
あなたは痩せて
テロルだけになってしまった
*
僕たちに何が残されているだろう
立ちつくす光景と
拡散する状況の波打ち際に
底の抜けた時代の饒舌と
僕自身の荒廃に
何が残されているだろう
たどり着けない僕たちに
事後の説得と
納得の共犯関係に
絶えず自らによってはぐらかされている
僕たちに何が残されているだろう
閉じていく対話と
開かれる映像の戦端に
ガレキに埋もれた人生と
くすぶり続けるヴィジョンの無効に
何が残されているだろう
目覚めれば、いつも
世界の不在と
いさましい言説になぎ倒される
ピリオドのない無力な思考
僕たちに何が残されているだろう
おびただしい生命の数値が
絶句するグローバルな報復に
殲滅される起源と
合理性の殺戮に
何が残されているだろう
この抽象的な空間のどこかに
どのような匿名の一員として
人間性の圧倒的な非対称を走る
一抹の微かな光として
希望よ
グローバルな自閉を食い破る
知的所有権のない
徹底的に個的な
名前のない意思よ
*
ここにいなさい
いたずらな将来への希望や
計画的な住宅ローンへの契約ではなく
ただひたすら、ここにいなさい
ここは、すなわち世界です
ビンラディン氏が
信仰と不信仰に割れたと宣言し
ブッシュ大統領が
善と悪との戦いに中立の立場というものはない
と語りつつ、報復戦争を始めた
割れた世界です
関係ないのではありません
ここはあなたの別名なのです
ここにいなさい
あなたはあなたという現実を踏み破り
ここにいなくてはなりません
ここは
全てが全てである場所です
そして私たちはここ以外のどこにも
行き場所がないということを
知らねばなりません
ここにいなさい
ここにいることを知りなさい
そしてもう一度
知らぬまに
選んでしまった場所を
もうひとつ大きな意思で選びなさい
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