幻の樹が


私のどこか遠くで
幻の樹がざわめいている
熱なく音もなく
予感の気を漂わせて
微かな伝達を発信する
時代は大きく揺らぎ
確信はへりくだっていた
虚の巨人が権力を振りかざして
数多の号令を発していたのだ
幻の樹のざわめきに
私はこの身を晒されて
崩壊と殺戮の悪寒に震えた
砕けた光景
無垢の告発者と
私の中にうごめく敵の影
析出される悪意と
処刑の疼きに
私のどこかで
幻の樹がざわめいている
かつて私自身が樹であった
封印された記憶の
伐採と埋葬の場所に
焼け残った廃墟に
私のどこか遠く
忘却の縁に
私は樹の根方にいた
産まれ落ちた場所にいて
そこを自ら選ぶということ
因果を引き受け
熱なく言葉もない
樹の思想を受信し
樹の記憶を生きること
樹の願いを意志するということを
予感の気を漂わせて
樹は私に諭している
私のどこか遠くで
幻の樹がざわめいている