君のいない夜                              下前 幸一
欠けた記憶の
夕暮れの部屋の漠然
名残の磁場

僕が思いを見失うのは
例えばそんな場所

不在という
見えない扉の
スローモーション

君のいない夜

いちばん寂れた所に
聴こえない音が動く

僕と君のあいだに
例えば
ひとつの渦巻きが生まれて

やがて渦巻きが消えるまで

行方のない軌跡の
あらゆる位置に
確かさの履歴はしまわれる

君のいない夜

静かさに打つ音は
小さく震えながら
自らの滅びに触れている

そのとき
僕と君のあいだに
ひとつの渦巻きが生まれて

やがて渦巻きが消えるまで

『証』に似たものはかたわらに目覚め
僕という不在へと転移する
 新・現代詩2002年冬号掲載
新・現代詩 2002年冬号 No.7
 
特集〈性〉
 「性」先進国文化と浮世絵        関根 弘
 「性」に関する表現の自由について    細野 豊
 性同一性障害と詩             中村不二夫
 わがエディプス・コンプレックス        出海渓也
 もうひとつの性について            禿 慶子
 アンドロギュノスと同性愛          渡辺みえこ
 
評論
 続・閃光に灼かれて、いま         御庄博実
 反戦詩という詩法              井之川巨
 
 李美子 大河原巌 桂あさみ 直原弘道 下前幸一
 富永たか子 中川敏 井本木綿子 木津川昭夫
 高良留美子 古賀博文 こたきこなみ ほか
 
 
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