骨壷を抱いて
                      利 亜利
久しぶりの休みには
君と過ごした町へ繰り出そう。

アパートの非常階段から眺める裏庭では
冬なのにしだれ桜が満開だ。

君と散歩した公園では
下校途中の子供達のランドセルの背中に
コオロギの死骸がにぎやかに張り付いている。

路地裏の電柱にうずくまる浮浪者は
体を丸めて静かに呼吸する。

カラスの群れる道路筋では
ナマゴミのすえた甘い匂い。

視野にとまるのは
冷たい空気の奥で静止した風景ばかり。

その中で幽かに脈打つものを
君も感じているはずだ。

さあ、次はどこに行こう?

家に帰ったら
君の窪んだ瞳孔に映る景色を
ありのまま現像して二人の寝室の枕元に飾ろう。
 新日本文学2002年 1,2月合併号掲載
「君の窪んだ瞳孔に映る景色」とは、死者の視界、失われた者の視界、身体を喪失した者の視界、あるいは所属をはぐれた者の視界でもある。それは、僕たち自身の視界に張りついては離れない背後の裏地だ。なぜなら、僕たち自身が、ある程度、失われた者であり、失われることが決められた者だからだ。その中で幽かに脈打つものを、僕たちはどのように名づけたらいいだろう。
新日本文学 2003年1,2月合併号
57年ぶりに発見!
中野重治・戦後初の創作原稿
『新日本文学』創刊準備号掲載〈新任監督官〉
 
特集◆愛の詩歌
鼎談 愛なき時代に愛の詩の復権を 
          長谷川龍生、暮尾 淳、原満三寿
エッセイ いつも変わらない歌 金子秀夫
     萩原朔太郎・その愛と虚無意識 中川敏
     石川啄木の涙 その愛と詩について 沢孝子
詩 大井康暢、麻生直子、佐川亜紀、福田美鈴、
    出海渓也、島つなみ、津金 充、藤永久子、
    平岡けいこ、桂あさみ ほか
発行 新日本文学会
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