めまい
下前幸一
ふわっと
視界が揺らいだ
運転席の春
軽いめまいに
物思いの
足がとられた
風景がたわみ
そのポケットに落ちてしまった
想定の外
なにか深いところで
二〇一一年三月十一日午後二時四十六分 大阪、路上にて
「非」の影が
今この場所に兆す
非日常 非合理 非想定 非正規 非現実 非存在
「非」の影が繁茂する
行き場のない問いが
ゆらり足元に降りてくる
トラックの荷台が揺れた
風が通り抜けた
と、思った
音もなく海が引き
やがて断崖の速度で
殺到するもののことを
物思いのはるか東北で
物語も風景も
消えてしまった
深い一瞬のめまいに |