理由のない午後に



凍える仮設の冬日と
草葉の陰の
思考の切り株に

音のない襟をかき合わせ

言葉がゆらり
立ちあがるとき

〈痛みはまだそこにある〉

ストレッチャーの午後

二十一世紀の薄皮が
ひらり捲れて滲む

砂漠プラントの
血まみれた犠牲が
帰還する場に

〈まだそこにうずくまり〉

拡散する記憶に
匿名の感情が動くとき

私たちは少しずつ
破局と馴れ合っていく

放射性セシウムの
遺伝子の被曝に
深く戸惑いながら

〈見えない疼きを発している〉

閉ざされた領域の
たこつぼの生

〈二四○○○年の半減期の刹那〉

「見えないものは
ないものさ!

「聞こえないことは
ないことさ!

「あさってのことさ!

複雑に絡み合った地球の脳みそが
青白く
冷たく充血している

〈どこに帰るべき道があるだろう〉

ひとしずくの呟きの
堆積する疲労と

今この瞬間の
唐突なシャットダウン

首切り部屋の
ひたすら単調な午後に

言葉がゆらり
それでも立ちあがるとき

〈痕跡はまだそこに震えている〉

ないことがないということに
葛藤する
理由のない午後に