桜舞う春の
下前幸一
桜舞う春の虚空を
ユキ、ユキ! と
小さな人が駆けていく
花冷えの
音のない楽隊と
クレヨンの宴を従えて
小さな人は駆けている
誰もいない
喧騒のとぎれた
迷いの途中
風に舞う
余白の向こうで
いっせいに芽生えが沸き立つ
島国の四月の陸に
未明の二酸化炭素が流れている
しんとした
春の響きを遠ざかる
小さな人の
揺らめく影に
空が蒸発している
霞漂う春の此岸の
私のいない
ユキの舗道を
小さな人が駆けていく