散歩しよう
                  下前幸一


《敷石をはがせば、そこは砂浜》

潮騒

打ち寄せる
五月のざわめき

約束のない人

見失った痛みを
場所に納めている

柔らかな忘却のなかで
時が思いつくように

通り過ぎた千年に
何の意味があるだろう

語りとられた千年に

だから僕はなんかいも
窓に聞いた

建物のない窓

死んだ物語を
密かに僕は食べていた

君が向こうにいる間

木漏れ日の鋪道に
どこからか鼻歌が聞こえた

散歩しよう