君の見ているものは                 下前幸一

君の見ているものは 崖の樹木 走る破線の見えない影 瞬きのように 人生は決して満たされない 君の立っている場所は 僕のいない街角 誰もいない劇中の劇 投げ出されたドラマの片隅で いま何が必要なのかを考えている 君の語る言葉は 鉄条網の錆びた布 凍える春の響き 隠された兆しのように 本当は何を言おうとしていたのか 君の聞いた知らせは 花開く四月の設計 揺れる木馬の告白 観念を見下す欲望の 世界のプレイング・マネージャー 君の触れている交差点は 全盲の触覚のおののき 君が歩いている地図は 他の歴史に書かれていた 冷たい石の洞窟の 千年の弔い 意味の分からない冷たさだ 君は軋む 雪渓の音がする

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